「まあ、なんと素晴らしいティーカップなのでしょう!」
うっとりと、この美しいティーカップに見とれているのは
ダイルクロコダイル氏だけではありません...
実は私がずっと欲しいと思っているティーカップなのです。
どういうわけか、私は紅い珊瑚がとても好きで、とても惹かれます。
それほど物欲は、ない私ですが
紅い珊瑚の置物だけは欲しくてたまりません!
あの形と色! なんと、美しいのでしょう!!!
*** * * * * * * * * *
先週末、土曜日の午後
ダイルクロコダイル氏の友人ショーンが、新しく家を改築したというので
テムズ川の南側、バタシースクエアーにある彼らの家を訪ねました。
これは、建築家のショーンが自分のために造った初めての家です。
150年ぐらい前まで、そこはパン工場だったそうで
地下室にはパンを焼いていた窯をそのまま残してありました。
大きくないビクトリアンテラスハウスでしたが、とても上手に改築されていて
なんとも居心地の良い家に仕上がっていました。
ショーンのセンスの良さと、人柄の良さが隅々までに現れている
素晴らしい家です。
今日集った10人のゲストのために
ショーンは一部屋づつ丁寧に説明をしていきました。
家のツアーが終わると明るいテラスに集り
ショーンのパートナーであるピーターが用意してくれた
美味しいカナッペと冷えたシャンパンで会話も弾み
とても楽しいひと時を過ごしました。
かつてパン工場だった
ショーンとピーターのチャーミングな家を辞したダイルクロコダイル氏は
気候も良く気持ちも高揚していたので
キングスロードまで散歩をして、そこからバスに乗って帰ることにしました。
日が随分高くなったので、夜の7時でもまだ昼間のような明るさです。
パブやカフェには、人が 溢れていました。
歩きながら、ダイルクロコダイル氏は ずっと同じことを思い続けていました。
それは、彼等の地下室の 小さなドアを開けて入る
遊びにあふれたゲスト用のパウダールームにあった
紅い珊瑚の置物です。
なんという、色と形でしょうか!
[ なにもかもが 自分にとってパーフェクトな形と色 ] である!
と言い切れる モノ に出会うことは それ程 ありませんが
あの珊瑚は久しぶりに見た
100%ダイルクロコダイル好みのモノでした。
それを所有したい、という気持ちが心の中にどんどん膨れ上がって
きてしまいました。
「 もし、私が泥棒だったら、今夜あの家にこっそり忍び込んで、
あの珊瑚を持ち出すに違いない…」
と、そんなことまで考えながら歩いている自分に苦笑してしまいました。
バス停にたどり着くと、運良くバスが丁度来たので飛び乗りました。
少しづつ暗くなっていくチェルシーの街を眺めながら、思うこと
それは、紅い珊瑚の置物...
これから、ロンドンのあちこちを見て回り、私の紅い珊瑚を
見つけなければ!
と、思った時に思い出したのは、養母エリザベスの言葉
『ダイル、そんなに欲しいのね、でもね今は諦めないと
いつか時がきて、もしあなたにそれが本当に 必要になった時には
きっとそれがあなたのところに、来るものなのよ。
だから、今は諦めなさい」
これは、ダイルクロコダイル氏が、まだ9歳ぐらいの頃だったでしょうか?
バイオリンを習い始めてすぐの頃、友人が持っていた高級なバイオリンが
欲しくて欲しくて、学校から戻るとずっと ごねていた時に
エリザベスから優しくもぴしゃりと言われたことで
今でも、欲しがり屋の ダイルクロコダイル氏の頭の中で、響いています。
「 そうだ!私に必要な時、あれはやって来るのだ!」
そう、自分に言い聞かせながらも
ダイルクロコダイル氏は2階バスの一番前に座って
ちょっと難しい顔をしながら
ずっと、紅い珊瑚の置物のことを考えているのでした。
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